残念な日本語を現行犯逮捕する

ビジネス文書は、正確に、論理的に、そして美しくありたいもの。一部上場大手企業における管理職経験14年、入試問題の文章推敲経験9年、卒業論文の添削経験18年、ヒューマン・ センタード・デザインや感情心理にも精通した筆者が、気になる日本語を斬ります。

乗客をへりくだる木更津駅

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木更津駅では、こんな掲示も逮捕しました。「ご利用できません」が、問題です。「ご利用できます」「ご利用できません」は謙譲語の表現です。謙譲語は動作の主体をへりくだることによって、動作の相手に対する敬意を表現します。「利用する」のは乗客の行為ですから、写真の表記では乗客の行為をへりくだって、鉄道会社に対する敬意を表現することになり、お客様に失礼にあたります。「ご利用いただけます」「ご利用いただけません」が正しい表現です。

 ホームに設置されているグリーン券自動販売機に貼ってあった「パスモもご利用出来ます」も、同様の誤りです。「パスモもご利用いただけます」が正しい表現です。

 なお、「出来ます」と漢字で書くのは、誤りというわけではありませんが、美しい日本語という観点からは、あまり適切でありません。「出来ます」「又は」「有る」「無い」など、漢字にほとんど意味がない補助語は、ひらがなで書くのが適切です。これらは、昭和50年代頃まではひらがな表記が当たり前でしたが、ワードプロセシングの普及とともに、無意味な当て字が増殖してきました。手書きならわざわざ漢字で書きませんが、ワープロ仮名漢字変換機能を使っていると、デフォルトで当て字を表示することが多いので、深く考えないまま当て字で確定する人が多いと考えられます。その結果、十代の若者が書いた文章なのに、漢字だらけで、明治時代の官報かと突っ込みたくなります。

 さらに付け加えると、無意味な当て字を廃して平易なひらがなでという考え方は官民共通であり、学会誌の投稿規定に定めている学会も少なくありません。官公庁の発行する書類にも反映されています。ところが、接続詞の「および」に関しては、昭和27年4月4日内閣官房長官依命通知「公用文作成の要領」などで平易な表記が推奨され、ほかの中央省庁がひらがな表記に努める中、文部科学省だけは「及び」と当て字表記を続けています。無意識で習慣が続いているのではなく、文部科学省系列の職員は「及び」と書くように教育されているようです。率先してひらがな表記を広めなければならない官庁であるように思うのですが、謎です。

 

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