反省が加害者の得になる理由
札幌で起きた爆発・火災事故。不動産会社の従業員が120本もの除菌消臭スプレーを室内でまいたことが原因とのこと。12月18日、不動産会社の社長が謝罪会見を行いました。
会見の中で、社長は、顧客から除菌消臭作業の代金を受け取りながら、実際には作業していなかった住居があることを明らかにしました。この点について、記者から責任を質問された社長は、「反省させていただき、…」と答えていました。
「させていただく」は、
(1) 相手側または第三者の許可を受けて行い、
(2) そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合
に使われるとされています(平成19年2月2日文化審議会答申「敬語の指針」)。
たとえば、定刻より早く帰りたい事情の生じた従業員が上司とやりとりする中で、「早退させていただけませんか」「ありがとうございます。では、15時頃に帰らせていただきます」と言うのは、条件(1) も条件(2) も満たしているので、適切です。
一方、不動産会社の社長の場合、反省するのに誰の許可がいるのでしょうか。「反省」とは、「自分の過去の行為について考察し、批判的な評価を加えること」(広辞苑)です。この社長がこの状況で「反省させていただく」と言うのは、誰かの許しがあれば反省すると言っているように受け取れます。まるで他人事のようです。
また、条件(2) から考えると、反省することが社長にとって恩恵であるかのようにも受け取れます。迷惑を与えた責任を恩恵にすりかえているようです。
つまり、条件(1) も条件(2) も満たさないのに「反省させていただき、…」と言ったことにより、無責任の印象を与える結果になっています。
「させていただく」が謙譲語の強い表現だと誤解している方が多いですが、実は、上記のように特殊な状況でしか使えません。安易に使わないように注意が必要でしょう。