始めるのを終わる
木更津駅にこんな掲示がありました。「発売終了」「発売を終了」が残念です。「発売」とは売り出すこと、すなわち販売を始めることです。「発売終了」と言うと、「始めるのを終わる」と言っているようなもので、なんとも珍妙です。これを書いた人は、発売と販売とを混同しているらしい。正しくは「販売終了」と書くべきでしょう。相談も受けないのでしょうから、「取扱終了」の方がさらに正確かもしれません。
「発売終了」ほど深刻ではありませんが、あちこちにある「…をもちまして」「…につきましては」も、あまり適切と言えません。「…をもちまして」は「…をもって」に丁寧語の「ます」をつけた表現です。「…につきましては」は「…については」に、やはり丁寧語の「ます」をつけた表現です。「ます」は、動詞の後につく助動詞です。「…につきましては」の場合、「つく」という動詞に「ます」がついたと考えられます。同じ「つく」でも、「仕事に就く」+「ます」=「仕事に就きます」などは正しいのですが、「…について」の「つく」には動詞本来の意味がほとんどなく、「…について」で接続助詞の働きをする慣用語となっています。「…をもって」も同様です。このように、動詞としての本来のはたらきを失っている「つく」「もつ」に「ます」をつけるのは、あまり適切でありません。接続詞の「しかし」を「しかしまし」とは言わないし、「そして」を「そしまして」と言わないのと同じです。「…をもって」「…については」が適切です。
天皇皇后両陛下をへりくだった市長
東京から最も近い棚田と言われる大山千枚田(千葉県鴨川市)。その美しさは、どの季節、どの時刻に行っても期待を裏切りません。その全体を見下ろせる場所に、写真のような石碑があります。天皇皇后両陛下が千葉国体ご臨席の際、大山千枚田にお立ち寄りになったことを記念して作られたことが刻まれています。その碑文に「天皇皇后両陛下は…大山千枚田を御視察されました」という一文があります。この「御視察され」は敬語の誤用です。「御視察され」の「れ」は尊敬の助動詞「れる/られる」の連用形なので適切です。問題は「御視察さ」の部分です。終止形にすると「御視察する」です。「ご…する」「お…する」は謙譲語の表現です。謙譲語とは、動作の主体をへりくだることによって、動作の相手に対する敬意を表現する敬語です。「視察する」という動作の主体は天皇皇后両陛下ですから、この一文は、あろうことか、天皇皇后両陛下をへりくだっていることになります。碑文は鴨川市長の名で刻まれているので、市長が天皇皇后両陛下を、まるで身内みたいに、へりくだってしまったわけです。戦前なら不敬罪で投獄されたかもしれませんね。2016年2月、鴨川市役所に指摘の手紙を送りましたが、無視されています。残念。